秀808の平凡日誌

第壱拾参話 侵入


 クロードと紅龍は、グレートフォレスト/プラトン街道のある一角に降りたとうとしていた。
 
 そのすぐ目下には、『暴かれた納骨堂』と呼ばれる、冒険者でもかなりの強者でなければ立ち入ることを許されない場所の入り口が見えていた。

 この最奥地であるB6に、クロード達の捜し求めている『魂の指輪』があるのだ。

 ドドォン、という地の揺れるような振動と音の後に、クロードが紅龍の背中から地に音も無く飛び降りた。

 クロードが降りたのを確認すると、紅龍の巨体が、翼が、尾が縮み始めた。

「さて、紅龍様。ここにいるモンスター達の強さはどれぐらいなのです?」

 クロードがその言葉を発し終わるころには、紅龍の体は完全に人間の…ビガプールを襲撃したスウォームのような姿になっていた。

 流石は同種のモンスター、といえる。スウォームと大して見た目が変わらない。しいて違いを言うならば、細部が赤味を帯びていることと、右目に眼帯を施していることぐらいか。

「…我々の敵ではありませんが、クロード殿には丁度いい相手…『うぉーみんぐあっぷ』というのでしょうか?それに相応しいと思われます、ただ…」

「…ただ?」

「我々の探している指輪の番人である『ブレイマ』というモンスターは、簡単に倒せる相手では在りません、それに気をつけていただければ、さしたる問題はございません。」

「…そうか、ならば行こう。」

 クロードと紅龍の体が入り口のポータルに乗ったのを確認すると、二人の体は『暴かれた納骨堂B1』に転送された。



暴かれた納骨堂B6

 B5に通じるポータルから、クロード達2人の姿が見えた。2人の体にはいたるところに血糊がべっとりとついていたが、擦り傷一つ負った様子はなかった。

 紅龍は、クロードが腕についている血を払い落としている様子を見て言う。

「さすがはクロード殿、この納骨堂で『ブレイマ』に次ぐ強さを持つ『ファミリア』を一撃で仕留めるとは。」

「あの程度、手慣らしにもならん。紅龍様のいっていた『ブレイマ』というやつも、さして強くはないのだろう。」

 そうクロードが言い終わった直後、奥の方から低い声が2人に聞こえた。

「…フフフ…我も随分となめられたものだ…」

 2人が声のした方を向くと、巨大な鎌を持った濃緑色をしたモンスター『ブレイマ』がこちらを見ていた。

 その姿を見,クロードが呟く。

「あれが『ブレイマ』…どの程度か、確かめさせてもらおう!」

 そういい終わった瞬間、紅龍の近くからクロードの姿が消え、一瞬のうちにブレイマの目前にまで迫る。

「死ね」

 クロードの手刀がブレイマの首を断ち切るかのように横に振られる。

 並の速さではない。クロードの手刀の速さは、間違いなく銃弾の放たれる早さと同等の領域に達していると思われた。

 振られた腕の動きが、全く見えないのだ。

 その速さに反応できなかったB5までのモンスター達は、成すすべも無くその手刀で胴体を真っ二つにされたのだ。

 だがブレイマは、その手刀をあっさりと腕で受け止めてしまった。

「…何?」

 予想外のことに同様し、隙ができたクロードに、ブレイマは持っていた鎌で強烈な一撃を放つ。

 クロードは咄嗟に身を引いて斬撃を軽減したものの、上半身に決して軽くは無い怪我を負い、鎌の風圧に一気に吹き飛ばされた。

「が…はっ!?」

 吹き飛ばされたクロードの体を、紅龍が受け止める。

 その様子を見、ブレイマはクロードに言い放つ。

「我をなめてもらっては困るぞ、人間…」

 自分が受けた傷を見ながら、クロードが紅龍に呟く。

「…なるほど、これは手強いな…紅龍様、貴方の言うとおりだ」

「…私の推測は間違ってなかったようですな、クロード殿、ここからは私がやらせていただきます。」

 紅龍がクロードの前に立ち、背中に畳まれていた黒と紅の混じった翼を広げた。

「ブレイマ殿、先程の無礼は失礼した。我等2人は、貴方と争うつもりは無い。貴方のその右手の人差し指につけている指輪…『ホロウサークルズ』を我々に譲ってもらいたいのです。」

 紅龍が丁重な言葉でブレイマに話し掛ける、対するブレイマも、丁重な言葉遣いで紅龍に返答する。

「頼みごとをする前に、貴殿等の名を教えてもらおうか」

「これは失礼した、我名は紅龍ゼグラム。こちらの先程貴方に無礼を働いてしまった方は我主、クロード殿にございます。」

 ブレイマは「ほう」と呟くと、言葉を返す。

「では、ゼグラム殿。この『ホロウサークルズ』を渡して、我に何の得があるのか、回答願いたい。」

「その『ホロウサークルズ』は、我等2人の主…祖龍様復活の鍵となる重要な産物。それを渡していただき、無事祖龍様の完全復活が成されれば、貴方を協力者として祖龍様が世界を統一した時の地位と権力を約束しよう。」

 その回答を聞き、ブレイマは口元に笑いを浮かべた。

「では、こちらが断ると返答した場合は?」

「私は好きではないが、武力行使で奪わせていただく。」

 向かい合う2人の間に、険悪なオーラが漂い始める。

「紅龍ゼグラム殿、我はずっと生きているうちに貴様と闘い、そして倒すと夢見ていた。その夢を今、実現させてご覧に入れよう。そちらの要求は断らせていただく。」

「指輪の番人ブレイマ様、私もずっと貴方と戦ってみたかった。私は生きている者の『魂』を餌としている。そう返答されるならば、強者である貴方の魂、私の血肉とさせていただこう!」






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